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「…早く来て…早く来て…お父さんが…お父さんが…!」
父の手をとり震えることしかできない私の願いに応えるかのようにドアが開き、医師たちが入ってくる。
「ナナシさん!処置するから離れて!」
医師にそう言われ押し退けられた私は、フラフラと後退り壁に背をつけた。
その拍子に窓際に置いていた何かが落ちる…子供の私とともに折っていた折り鶴だ。
私はおもむろにそれを拾い上げ両手で握りしめた。
「…お父さん…!」
…結果がどうなるのかはわかっている…でも祈らずにはいられなかった。
目の前の父と医師たちを祈りながら見ていた…そんな時だ。
「──痛っ!」
覚えのある頭痛が私を襲う…その頭が割れるかのような痛みに、私は思わず膝をついた。
「…待って…もう少しだけ…。」
頭を抱えながら必死に意識を保とうとしたが、その抵抗も虚しく視界がブラックアウトしてしまった。
「…あ、気が付かれたみたいです。」
ぼんやりとではあるが意識を取り戻した私の傍らにいた看護士がそばにいる医師に声をかける。
覚えのあるやりとりだが、まだ朦朧とする意識でも看護士の服装が違うことに気がついた…下がズボンの白衣、頭上にはナースキャップが無い。
「ご気分はどうですかー?駐車場で倒れてたんですよー。」
医師が私の顔を覗き込む…コイツも若いなぁ…この人も研修医だったりして…。
「納品の後に倒れられたみたいですねー、営業さんが心配して来てくれてますよー。」
だんだんと意識がはっきりしてきた頭が今の状況を把握する。
…戻ってきたんだ、私。
「あっ、黒崎さん!大丈夫ですか!?」
徳野中央病院の営業担当の若手社員が処置室に入って私の顔を見るなり声をかける。
「はい…あ、すみませんでした、ご心配をおかけして…。」
私はベッドから身体を起こすと、わざわざご足労いただいた社員に深々と頭を下げた。
「いえいえ…でも災難でしたね、今日は誕生日だって言ってませんでした?」
その言葉に、担当地区が重なる同年代の営業に30歳になったことを愚痴っていたことを思い出す…そうか、こっちは日が経ってないのか…。
「…ホント、とんだ誕生日ですよね…。」
私は苦笑いをしながらそう答えた。
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