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「…あ、気がつかれたみたいです。」
ぼんやりとではあるが意識を取り戻し目を開けた私の傍らにいた看護士がそばにいる医師に声をかける。
スカートの白衣と頭上にナースキャップ、今時では珍しい気がする服装だ…徳野中央病院の看護士ってまだこんな格好なんだなぁ…。
「ご気分はどうですかー?駐車場で倒れてたんですよー。」
医師が私の顔を覗き込む…若いなぁ、私と年が変わらないみたい…もしかして研修医、とか…?
「ご自分の名前や生年月日、言えますかー?」
…あ、そうか…免許証とか保険証とか、身分証明になりそうな物は全部車の中だっけ…。
「…黒崎飛鳥…○○年9月7日生まれ…。」
まだ意識が朦朧としたまま呟くように答えた私の言葉に、医師たちが呆気にとられた顔をする。
「今日が誕生日なんですね…でも、その生年月日だと10歳になりますよ?」
苦笑いする医師の言葉に、私の脳内にかかっていた霧が一気に晴れる。
「──えっ!?」
飛び起きた私はあわてて周囲を見回した…処置室らしいその部屋にあるカレンダーは20年前の物になっている。
目眩を起こした私はそのまま突っ伏してしまった。
「あぁ、急に起き上がるから…大丈夫ですか?」
医師たちに促されて、私は再びベッドで横になる。
…確かにそれもあるけど、この信じられない状況だ…目眩のひとつも起きるってもんでしょ…。
「…あ、あの…。」
私は傍らにいる看護士に問いかけた。
「…ここ…って何処…?」
「…さて…どうしよう…?」
念のため、と入院を勧められて内科の病室に入った私はあれこれと考え始めた。
…医師たちの話や処置室で見たカレンダーから考えると、どうやら20年前にタイムスリップしたらしい。
しかし自分でも信じ難いこの状況を下手に説明したところで『頭が変になった』と思われるだけだろうから…。
「…ココハ何処?私ハ誰?…と言う方が面倒臭くなくて良いかな…。」
しかし財布も何も無いから…入院費とかどうしよう…?
「…ん?20年前…?」
──その生年月日だと10歳になりますよ?──
あの医師が言った通りだ…20年前の私は──10歳!
「──じゃぁ今って…『今日』ってお父さんが死ぬ少し前、ってこと…!?」
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