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見送りにしては、時間がかかった。
「チーフに余計なこと言わなかった?」
戻ってきた母に、私は口を尖らせた。
「余計なことって?」
「チーフはきちんと挨拶に行くつもりだったの。だから……」
「挨拶って、なんの挨拶よ」
母は、はなから聞く耳を持たない。
「なによ。これ」
枕元に置いてあるスマートフォンを見つけて険しい顔つきになる。
「チーフが持って来てくれたの」
「部屋に入ったの?」
チーフに合鍵を渡してあることは母に言ってはいなかった。
「でもチーフが鍵を開けてくれたから、私が倒れていたのもわかったんだよ」
「あなたはまだ学生なのよ。そういう付き合いはしなくていいの」
私のことを名前ではなくあなたと言うときの母は機嫌が悪い。
「それに部屋に出入りしているなら、美月のことを心配してそばにいるものでしょう」
「チーフはそう言ってくれたよ。でも私が、帰って下さいって言ったの」
「息子さんがいるからでしょう。どうして美月が気を遣わなきゃいけないのよ」
母は強い口調でそう言った。
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