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チーフは体を離そうとはしなかった。
胸の辺りに重みを感じる。
「隠し事ってほどのことじゃないけど、退院したら話そうと思っていることはあるよ」
「良いお話ですか? 悪いお話ですか?」
「さあ、どっちだろう」
チーフの様子からは緊張感が伝わらない。それはつまり、悪い話ではないのだろう。
「このところ、色々と考えることもあって」
「どんなことですか?」
「自分の我儘に美月を付き合わせている気がして」
そこでチーフは言葉を区切る。
「我儘を言われた覚えはありませんよ」
「美月が優しいだけだよ。いつも俺のことを優先してくれる」
「それはチーフのことが好きだからです。好きな人のことはいちばんに考えるじゃないですか」
「でも、三年待ってくれっていうのも俺の都合だし、将来的なことを考えるなら、店を持ちたいとかいう前にもっと現実的なことを考えた方がいいんじゃないかとかさ」
「現実的なことって、なんですか?」
チーフは唇を噛むような仕草で黙り込んでしまった。
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