第19章

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「なにかあったんですか?」 「あったといえば、あったかな」  もしかして母が余計なことを言ったのだろうか。 「誰かに何か言われたとか」  恐る恐る訊ねてみる。 「ほら、こないだ本部長来てただろ。それで、息子が高校卒業したら本部への移動を考えておけって言われてさ」 「東京ってことですか?」 「うん。でも俺は行くつもりがないし、そもそも今の会社にいて、どうなるんだろうって」 「転職を考えているんですか?」 「結婚して家族を養うには、給料だって高い方がいい。今の会社に決めるときは、こっちに引っ越す前に就職先だけは決めておきたかったから、東京で面接を受けられるっていうだけで選んだようなものだから」 「でも私は贅沢なんて望んでません」 「だけど、うちの会社を見渡しても俺が最年長だろ。居心地はいいけど、不安もある。あと三年勤めて辞めるっていう考えもあるけど、俺だってもたもたしていられる年齢じゃない。店を開くにしても、それなりの資金も実績も必要だと思うんだ」
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