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「…ね、静
しずかちゃんとか言ったのは謝るからさ、この前みたいのはちょっと勘弁して
そーいうのは、もう少し待ってほしいなって…」
「この前?
あぁ、あの時か
ちょっとやり過ぎた?」
「やり過ぎたっていうか…
まださ、距離感に慣れてないっていうか…」
なかなか慣れないんだよな、距離感に。
友達の距離感。
親友の距離感。
恋人の距離感。
全部違う。
親密になればなるほど、相手との距離が近付く。
近くなればなるほど、視界が狭まって、相手しか見えなくなる。
馬鹿になればいいっていうのも分かるんだ。
馬鹿になって、一人のことしか見えなくなって、一人のことしか考えられなくなって。
周りが見えなくなって。
たぶん、大好きなんだ。
静のこと。
でも、周りが見えなくなるほど、盲目にはなってないし、なりたくない。
自分のこと、見失いたくないんだ。
それに、俺に関わる人が見えなくなるのは嫌なんだ。
やっぱ恋愛は難しい。
「ちょっとね
ちょっとだけ待ってくれ」
「わかった
怖がらせないよう気を付ける」
「いや、怖がってはないんだけど!
なんていうかさ、準備ができてないんだ」
「…うん、分かった
俺もまぁ健全な男なんですよね
我慢できなくて、キスくらいはするかもなんですが、それは許してもらえますか?」
少し拗ねたような感じ。
男に感じるのはおかしいかもしれないけど、可愛いなって思った。
キョロキョロと周りを見渡して、人気がないことを確認する。
人がいないのを念入りに確認してから、
「それは、俺もしたいって思ってるよ」
と言って、キスをした。
触れるだけの軽いのだけどね!
自分からするのは勇気がいるんだ。
唇が触れるだけの軽いキスも、舌が絡み合う深いキスも。
前の彼女とも何度もしたことがあるけど、それ以上にふわふわした気持ちになるんだ。
それって、静には本気ってこと?
前の彼女には、そこまでじゃなかったってこと?
よく分からないけど。
まぁ、ちょっとずつでいいよな。
友達から親友になれたんだ。
親友から恋人だって、大丈夫。
距離感なんて、自然と身につくって信じてる。
後ろ向きな言葉のように聞こえるけど、俺には精一杯の言葉。
ゴールが分からなくて、終わりが見えない関係。
結末がどうなるのかも、この関係に終わりが見えない。
でもそれっていいことだと思った。
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