第1章

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ギィ、という鈍い扉の開く音で目が覚めた。 ボンヤリとした意識の中、キョロキョロと辺りを見回す。 目を開けても、人の気配はない。 気のせいか、と目を閉じてもう一度眠りに就こうと椅子に座りなおすと、勢い余ってかバランスを崩して、そのまま椅子ごとひっくり返った。 「うあっ!」 情けない悲鳴とともに、轟音を上げて尻もちをつく。 転んだすぐ横には、アイマスク代わりと顔に被せていた文庫本が、無残な形で放り出されていた。 どうやら、眠っているうちに落としていたらしい。 「いてて……」 本を拾いながら椅子を元に戻して、今度は転ばぬように慎重に、ゆっくりと椅子にもたれかかる。 そして、本についたシワを直しながら、そろそろアイマスクの購入を本気で検討しようかと頭を捻らせていると、 「だ、大丈夫ですか? さっきこの部屋から、凄い音がしましたけど」 濡れた手でポットを持った、後輩の香西ユミが慌てて部屋の中に飛び込んできた。 「……なにやってんだ、お前」 「あ、いえ。これはですね‥‥、その、」 持っていたポットを後ろ手で隠しながら、香西がモジモジと口ごもる。 「……先輩、もしかしたらまだ工房にいるかなぁ、と思って、確認しに来たんですよ。そうしたら案の定いて、よく眠っているみたいだったから、そのままそっとしておいても良かったんですけど、折角来たんだからって思って、紅茶の一杯くらい入れようかと」 「あぁ、そういうことか」 さっきの扉の音は、香西が部屋から出る音だったということか。 道理で探してもいなかったわけだ、というより、俺は香西が入って来たことには一切気が付かなかったとでもいうのか。 我ながら、恐ろしい熟睡っぷりである。 「悪いな、わざわざ気を遣わせて」 「とんでもないです! それより、起こしちゃってすみません」 ペコリとお辞儀をして、トテトテを走りながらポットを台に置き、スイッチを入れる。 なんだか危なっかしい動きだな、と思いつつ、どこか微笑ましくも見えた。 ハメている腕時計に目をやると、時刻は9時を回っていた。 「今日は、講義ないのか?」 一応、確認をとる。 大学院生の俺にとっては、まだまだ早い時間だが、一応一限の時間は回っている。 俺のために講義をサボったというのなら、流石に格好付かない。 最も、大学生にとって講義を休むということは、割と日常茶飯事だったりするのだが。
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