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人類の夢、飛翔。
それを叶えるべく立ち上げられた鳥人間コンテスト。
そして、その夢に感化された若者が大会に参加するために立ち上げた団体、その一つがうちの大学にも存在した。
最初は、遊びのつもりだった。
大学生になったからには、普通じゃできないことをやろうと思って、突飛なサークルを梯子する中で、部員との空気が一番合ったからなんとなく通っていただけのはずだった。
大会に出て、先輩の飛ぶ姿、そして、墜ちていく姿を見て、いつか誰よりも大空を飛ぶ機体を作ってやろうと、そう思うようになっていた。
そして、そんなことを続けていた結果が、現実から目を反らした哀れでみじめな今の自分の姿だった。
「……また、俺を止めに来たのか」
できるだけ、感情を抑えるようにして俺が言う。
「そんなことはないです。私は、先輩が作っている飛行機も、先輩が飛んでいる姿も……好きですから」
「そうか……」
俺はテーブルに紅茶を置いて、扉の方を見た。
分厚く重たいその扉は、現実となって俺の前に襲い掛かる。
飛び立つためだったはずの大空は、もうしばらくまともに見れてはいない。
俺の翼は、もうとっくに折れてしまっていた。
「用は、それだけか?」
「いえ、その……」
なにか言いたげな瞳が、俺の前で悲しげに揺れる。
黙ったままでいると、香西は立ち上がって言った。
「私、これから講義あるので」
逃げるようにそこから立ち去り、扉を開けて出ようとした手が、止まる。
小さく深呼吸をして、香西が俺の方を振り向いた。
「私、ずっと待ってますから」
そう言って、今度こそ香西は扉を開けてそこから立ち去った。
それが何を指す言葉なのか、俺は理解することができずに、ただ香西の、飲みかけの紅茶から漂う湯気を、追うようにジッと見つめていた。
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