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結論から言えば、初フライトは成功に終わった。
後輩たちも「すげー!」の連続で、いい刺激を与えられたんじゃないかと思う。
ただ、俺はなぜか、その事実に心から笑うことができなかった。
部員が帰り、日が暮れても、俺は帰ることができずにまた工房に一人でこもっていた。
求めていたはずの声援、結果。
あとは、大会で自己記録を超えて、名を残すことができれば、俺は満足だったはずなのに。
俺の心は、高揚感とは程遠い錆びた炎が、青色を思い出すかのようにユラユラと揺れるばかりだった。
「やっぱり、ここにいたんですね。先輩」
ハッとして顔を上げると、扉の前には、香西が立っていた。
扉は、相変わらず鈍い音を立てて空間に俺と香西だけを置き去りにする。
「香西……、お前なんで」
「飛行機。できたんだったらやっぱり見たいじゃないですか。ちょっと、迷いましたけど」
そう言うと、俺の横にしゃがんで、機体に触れた。
「やっぱり、よくできてますね。私じゃ、到底作れない」
感心するように、香西が呟く。
「そんな大したものじゃないさ。こんなの、ちょっと学べば誰でも作れる」
「まぁ、そうですよね」
俺の発言を撤回するでもなく、あっけなく香西はそれに同調した。
そして、また立ち上がり、後ろ手にゆっくりと歩き出した。
「先輩、知ってましたか? 私の所属しているゼミ、先輩と同じなんですよ」
「え……」
「このサークルだってそう。先輩に憧れて入って、ずっと先輩のことだけを見て。……なのに先輩は、ちょっとも私のことを見てくれないどころか、いつの間にか、私の前からもいなくなりました」
「それは……」
「分かってますよ。エゴだってことくらい。就活に失敗して先輩が悩んでいることも、サークルのことを本気で考えて苦しんでいたことも、全部知っていました。でも、ずっと黙ってました。どうしてか、分かりますか?」
俺は黙ったまま、香西の後ろ姿を見つめていた。
そして、小さく首を横に振ると、香西は泣きそうな顔で振り替えた。
「待ってたんですよ。先輩が、言ってくれるのを。辛いって。私に、なにかを求めてくれる日を。でも、もう遅いですよね」
そう言うと、香西は俺の前から姿を消した。
その後ろ姿を、俺はまた、追いかけることができなかった。
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