天使祝詞の降る夜に

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 家事を一切しなくなったのは、エリカにやってもらった方が嬉しかったから。  俺が帰る時に家にいてほしいのは、いつだってエリカに迎えてほしいから。  甘えるだけ甘えていたら、いつしかそれが日常になってしまって、甘えが実現しない時には、苛立ちしか感じなくなった。  自分の方が偉いんだと、してもらって当然なんだと、錯覚してしまっていた。 「いいの、もう。来てくれたから」  自分の気持ちを忘れて、応え続けてくれていたエリカの気持ちの上に胡坐をかいていたというのに、エリカはふんわりと笑うと俺の胸に頬を寄せた。 「ずっと待っていて、良かった」  その冷えた体を、俺はより一層力を込めて抱きしめる。  そんな俺達を祝福するかのように、色を得た月光がまるでヴェールをかぶせるかのように冴え冴えと注ぎ込まれていた。 《 END 》
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