天使祝詞の降る夜に

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 その怒りが消えたのが、三年前の今日だった。  エリカに出会った日だった。  ……そうだ、確かに告白してきたのはエリカからだったけれど  坂を登り切った上には、三角屋根の教会がある。  こんな時間だから、もちろん人の気配はない。  だけど俺は迷うことなく礼拝堂の扉を押し開いた。  ステンドグラスを透かした月の光は、淡く色を帯びて祭壇に零れ落ちていて。  まるで天使の祝福を音で表したかのような歌声が、ひそやかに礼拝堂の中に満ちていた。  ……好きになったのは、俺の方が先だった。 「……エリカ」  エリカが歌うアヴェ・マリアは、初めて出会ったあの時と同じように、俺の心の中から黒い感情を洗い流してくれた。
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