モラトリアム女学生は、ちょっと変わった噂を聞いたとか。

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「ありがとうございました」  ベランダから、席に戻る。 「いえいえ、お気に召したようで、なによりです。おかわりは、おなじものでよろしいですか?」  いちにもなく、頷く。ベランダとはいえ半開放されていた場所にいたので、身体が少し冷えていたのだ。 「??あの」  二杯目のホワイトココアの飲み終えて、私は訊く。 「はい、なんでしょうか?」 「メインの望遠鏡でしたっけ。それはいつごろ帰ってくるんですか?」 「そうですね。だいたい早くて一週間、遅くて十日といったところでしょうか」 「それは、今日見た星空より、すごいものがみられるんですか?」 「ええ。お約束できますよ」  自信ありげな表情を浮かべて、マスターはそう断言する。 「わかりました。それじゃ、その時になったらまたお邪魔しますね」 「はい。お待ちしております」  私は席をたって、手早く会計を済ませる。もちろん、その時にはこのお店のマッチをひと箱もらうのを忘れずに。  それは、このお店のマスターが天体観測を趣味にしているように、私の趣味であったからだ。 「ありがとうございました」  またここに来よう、そしてもっと大きい望遠鏡で、星の世界を見よう。そう思う。 「いえいえ、こちらこそ。またどうぞお越しください」  友人曰く、滅多に見せないから評判になっているぞという笑顔を浮かべて、私は喫茶店を後にした。
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