モラトリアム女学生は、ちょっと変わった噂を聞いたとか。

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 夜になって気付いたのだが、ここら辺は街の灯りが多い。  そのため、空を見上げてもいくつかの星を見ることは出来るものの、満天の星空とはとてもではないが言えそうにない。  たしか、光害って言ったっけ。  授業で習ったことを思い出しながら、教えてもらった道を歩く。  こんな空で大丈夫なのだろうか。そんな思いを胸中で呟きながら。  ほどなくして、海辺に建つ一軒の喫茶店を見つけた。  デスクスタンドと見間違えるほど小さな照明に照られている藍色の小さな看板には、銀色の独特な筆致で『M42』と書かれている。少し変わっていたが、どうやらそれが店名であるらしい。  古い喫茶店でよくある呼び鈴付きのドアを開いて、私は店内へと身をすべりこませた。 「いらっしゃいませ」  コーヒーカップを磨いていたマスターが、一言そういった。  歳は私より一回りくらい年上の30代前半といったところだろうか。背の高さは普通だったけれど、ずいぶんすらりとしている。  ちょっと変わっているのは、少し髪を長く伸ばしていて、それをうなじあたりでゴムを使ってまとめているところだった。  店内はというと、落ち着いた雰囲気のいたって普通の喫茶店だった。  ところどころに星や星雲、星団、そして銀河の写真が飾られていて、嫌が応にも期待を高まらせてくれる。  ただ、照明が落とし気味でやや暗く感じる。もっともそれは店のコンセプト上仕方の無いことだろう。  店内には他にお客さんはいない。私ひとりだけである。  席はというと、四人がけのテーブル席がみっつと、カウンターのみとなっている。  なので、私はカウンターのあまり隅にならないところへ座ることにした。 「ええと……」  少し言葉に詰まる。望遠鏡をみせてくださいーーで、いいのだろうか。  私がそう悩んでいると、マスターはそれを察したのか、お冷やとおしぼりをそっと私の前に置きながら、 「ひょっとして、望遠鏡がお目当てですか?」  そう、言い当ててくれた。 「ええ、まぁ……」  ずぶの素人ですけれど。そう付け足すと、マスターは申し訳なさそうな貌で、 「今はメインの望遠鏡をメンテナンスに出してあるので、小さな予備の物しかありませんけど、構いませんか?」  それで構わないというとマスターは嬉しそうに、 「ありがとうございます。おかわりはサービス致しますね」  願っても無いことだった。
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