モラトリアム女学生は、ちょっと変わった噂を聞いたとか。

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 さっそく、お冷やの後に来たメニューを眺めてみる。  こういった別の目的がある喫茶店はたいてい品数が少ないものだが、予想に反して飲み物も食べ物も種類が多かった。 「あの、このホワイトココアって……」 「はい、ホワイトチョコレートパウダーで作るココアです」 「ではそれで」  一礼して、マスターはホワイトココアを淹れるのにとりかかる。  なんというか、すごく姿勢が良い。まるで、茶道の師範がお茶を点てているかのようだ。 「おまたせいたしました。ホワイトココアになります」  そっと置かれた湯気の立つコーヒーカップを、上から眺めてみる。  見た目はホットミルクと大差ない。というかホットミルクだ。  でも一口飲むと、ココアの……いや、ホワイトチョコレート特有の濃厚な風味がぱっと広がった。  おもわず、ほっとした息が漏れる。  あらためて、店内を見回してみる。こういう落ち着いた雰囲気は、実に私好みだった。  ここへは、こうやって温かい飲み物を飲みに来るだけでもいいのかもしれない。  一杯目のホワイトココアを飲み終わった頃だった。 「そろそろ、天体望遠鏡を触ってみますか?」  磨いていたコーヒーカップを置いて、マスターがそう薦めてくれた。 「あ、はい。お願いします」 「それでは、こちらへどうぞ」  店の奥へを案内される。そこは分厚いカーテンに覆われていて、ずっと気になっていたのだ。  マスターが、カーテンを開ける。すると、その先はベランダだった。  海に面していて、それなりの広さがある。  そしてそこに、二台の三脚が設置されていた。   一台の方はとんでもなくごつい。三脚ではあるものの、まるで折りたたむことを考えていないかのようだ。そして、その上に載っかっている機械も大きい。まるで昔見た古いプラネタリウムの投光器のようで、なにに使うのかさっぱりわからない。  ただ、その機械から何本ものケーブルが伸びていて、あるものはバッテリーに、またあるものは消灯してある液晶ディスプレイに接続されている。液晶ディスプレイには複数のボタンがついているので、おそらくこれを使って操作するのだろう。  もう一台の方は至ってシンプルで、スマートながらもがっしりとしている三脚の上にL字型の装置が載っていて、二本の棒が突き刺さっている。 そしてそのL字型の装置に、天体望遠鏡が載っていた。
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