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その望遠鏡が、マスターが言った小さな予備のものなのであろう。
けれど、素人の私にとっては十分に大きなものにみえた。
なにせ、私の腕くらいの長さと太さがある。
それは上品な白い色をしていて、なぜか小さな望遠鏡がまるで狙撃銃のスコープのように載っていた。
これで予備なら、普段使われている望遠鏡はどれくらいの大きさなのだろう。少し興味が出てくる私だった。
「天体望遠鏡を操作すのは初めてですか?」
マスターが丁寧に訊いてくれる。
そうですと答えると、では……とマスターは小さく一礼して
「それでは望遠鏡の簡単な操作方法から。まずはこの小さな望遠鏡で見たい天体を選んでみてください。そうすれば、大きな方に自然と入っているはずです」
「小さい方で観る理由はなんでですか?」
「こちらは、意図的に倍率を落としてあるのです。そうすれば、視野が広ければ、星を探すのは容易になりますからね。なので、この小さな望遠鏡はファインダーと呼ばれています」
なるほど。捜すものということか。
「それじゃ早速……」
望遠鏡を前に、固まる。
情けない話だが、何を観ようかとっさに思いつかなかったのだ。
「月はいかがでしょう。今夜はいい具合に見えますよ」
それを察したのか、マスターがそう助言してくれる。でも……。
「満月じゃないですよ?」
「その方がいいのです。月は少し欠けている方が、クレーターの陰影がわかりやすくなっておりますので。欠け具合は――まぁ、好みによりますが」
「なるほど……」
さっそく、小さな望遠鏡もとい、ファインダーを覗いてみる。
先ほど狙撃銃のスコープと言ったが、それを彷彿とさせる十字線が視界を覆っていた。
「この十字線の中央に、月をもっていけばいいんですね」
「はい。その通りです。ただ、カメラなどと違って上下左右が逆さまになります。お気を付けください」
「あ、ありがとうございます。えっと。望遠鏡のどこを触れば」
「レンズ部でなければどこを触っても大丈夫ですよ。多少力を入れても大丈夫です。止めたい位置で手を離せばちゃんと止まりますから」
言われたとおりに、望遠鏡を軽く押してみる。すると望遠鏡は素直に動かしたい方向へと動いてくれた。
なにげにこれ、すごい技術なのでは無いだろうか。
そう思いながらファインダーをのぞき込み、月を十字線の中央に入れる。上下左右が逆に動くからなんか変な感じだった。
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