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「分かってるとは思うけど、おとなしくしてよ。ここから先はセキュリティが厳しいから」
「……ああ」
こうして三人は階段をゆっくりと上がっていく。ここから先は、一般人の侵入は原則禁止されている。上層幹部のオフィスなどか置かれているし、教団の秘技なども納められているからだ。だからこそ幹部のエスコートが不可欠、個々でうろつくのは危険も伴う。
風太は相変わらず落ち着かない様子だ。キョロキョロと辺りを見回し、時おり顔をしかめている。それには広報担当も怪訝そうな表情。このまま追い出されてしまうのではないかと慎治も気を揉むばかり。
「教義が終了するまでは、あと数十分は掛かるかと思われます。それまではこちらで」
応接室は三階の一番奥にあった。一般の信者なども使用できる第一応接室だ。中には数十人が集える設備も整っていて、飲み物などのセルフコーナーも兼備されている。慎治も数回使用したことがあるのでそれは理解している。
こうして広報担当は、軽く一礼するとその場を後にしていった。
それを認めてホッと息を吐く慎治。アポイントを予め取っていたから、ここまではうまく来れた。しかし問題はここからだ。憂いの原因は幾つかあった。相手は直感と勢いで動く曲者だ。話の進め方次第では予測不能な事態にも成りかねない。
「さてと風太、伝えておきたいことがあるんだ」
だから大まかな流れだけは、風太には伝えて置かなきゃと思った。それが憂いの一因だから。
「ちょっと便所な」
しかし返ってきた風太の返事はそれだ。
「便所って、風太?」
慌てて振り返るが、そこに風太の姿はない。勢いよく走り去り、数メートル先の曲がり角に消えていく。
流石に慎治も呆気に取られた。公共の施設で走るなんて、良識のある大人ならまずしない。身体が若返って、頭の中身まで幼くなったのかと思ってしまうほど。
「相変わらずだな風太」
それでもそれが進藤風太の良いところ。年齢や時代の流れに関係なく、真っ直ぐで己の心に嘘をつけない男。
もちろん一抹の憂いがあるのは確かだ。それでもそこまでガキじゃないだろうと己に言い聞かせていた__
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