魂は燃えているか?

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 室内灯に照らされた通路は真っ白に染まっている。そこに風太以外の人影は皆無。BGMに混ざって聞こえてくるのはやはり呻き声らしい。 「……まさかな」  ごくりと唾を飲み込む。先程のオールバックには見覚えがあった。それは新任教師の頃、過去に端を発する記憶だ。  もちろんそれは風太だけの感覚に過ぎない。現実的には、二十年の歳月を加算する必要がある。つまりそれから二十五年の歳月が過ぎている。普通に考えれば同じ人物の筈はないから。 「……どこから来たんだっけ」  それより今は、慎治と合流するのが先決だ。気持ちを切り替えて左右を見回す。慌てていたので、どっちから来たのか見失っていた。  チリーン。鈴の音が鳴った。  右手方向、通路の奥から白い集団が現れた。その数十人ぐらいか。一番手前の人物は、銀色の前垂れを掛けている。それを紫の前垂れの人物達が追従する。今までない厳かな雰囲気、どうやら教団でも上級の者達らしい。  そそくさと通路の端に寄る風太。慎治から、上の階はセキュリティが厳しいと訊いていた。逃げ出したり、挙動不審な態度を取れば捕まってしまう恐れもある。こうして大人しくやり過ごすのが賢明に思えた。  誰もが無言だ。か細い鈴の音だけが耳にまとわりつく。深く礼をしてる為、見えるのは自らの足元だけ。かなり手入れが行き届いているのだろう、床はピカピカに磨かれて、天井の照明が乱反射する。それに映り込む影で、集団が手前を通過するのが判った。  焦れったい程の沈黙。集団が動く気配はない。直接見ずとも理解する、その鋭い視線が風太に注がれていると。 「……お前は」  その先頭の上級幹部の声ではっとした。 「いや、自分は怪しい者じゃなくて」  右手で後頭部を押さえて、慌てて視線を上げる。いつの間にか風太は取り囲まれていた。目を掻き開いて凝視する上級幹部を筆頭に、他の信者達もなめるような視線を向けている。『なんじゃこの小僧は。浚って問い質すか?』『サクラテックの回し者じゃねーだろうな』『どうします副長、拉致(ラチ)りますか?』口々に浴びせる罵声、まかりなりにも神に使える者の台詞とは思えない。 「なんなんだよあんたら。マジでカルト集団じゃねーか」  それには風太も戸惑いは隠せない。傍らの信者を押し退けて、その場から脱出する。 「誰がカルト集団だって? 二度とそんなこと言えんようにしたろうか!」 「魂の騎士団、なめてんじゃねーぞ!」  それが集団の逆鱗(げきりん)に触れた。口々に吠えながら風太を追いかける。 「てめーら、ちっと待て!」  それ目掛けて右手を突き出す上級幹部。かくして激しい追走劇が始まった__
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