涙の価値はどれくらい?

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近頃僕の周辺で涙を流す人が多いように感じたのだけど、喫茶店の中、マクドナルドの喫煙室でたばこを吸いながらツツツ…と頬を濡らしている背広を着たサラリーマンは僕にとってアイドルだ。 僕も涙で頬を濡らし、他人のことなんて気にしないで泣けたらどんなにかよいだろう。そんな想像をしていて電車の中で突っ立っていると、座席に座っている小学生の女の子が笑顔で声を出さずに泣いていた。 僕はその光景があまりにも美し過ぎて、その少女の前に立って彼女の肩に自分の手を置いた。 「どうかしたの?他人なのに話しかけてごめん」僕は冷静になろうと努力して話しかけた。 「ううん、頭の中で妄想を膨らませていたら、あまりにも感激しすぎて泣いてしまったの」 彼女はランドセルからハンカチを取り出すと軽く頬を撫でた。僕はなんて美しい仕草なんだろうと感心して、思わずため息をついた。 「君、小学何年生なの?」 「六年だよ。もう少しで卒業なの。あなたは?」 「僕かい?高校一年だ。昔の日々を思い出すな。僕にも小学生だった時があったんだ。懐かしいエピソードが沢山ある」 「名前はなんていうの?わたしは芹沢まな」 「僕の名前は藤堂龍一、それにしても君は清々しい泣きっぷりを見せてくれた。どんなことを想像したらそんなに感動的な笑顔で涙を流せるの?」 「二十五歳で初めての赤ちゃんを抱きしめて頬に軽く口づけをする。そんな場面を思い描いたの。そうしたら自然にね…」 「そうなんだ、僕も想像力を働かして感動することはあるけど涙を流したことは一度もないな。君は将来何になりたいの?」 「将来?そうね、正直言って働きたくはないの。趣味にしているネットで小説を書いて一日過ごしたいと思っているわ」 「そっか、だいたい僕も同じことを考えている。そうだよな、何にもなりたくないよな。大学に入って、卒業して、就職する。なんだかそれが人生なの?って気は確かにする。でもそれしか歩む道はないようにも感じる。ある女性との出会いがあって交際して結婚して子供が生まれて歳をとって死んでいく。それだけが人生なのだろうか?」 「龍一くんは考え過ぎだな。あまりにも先をよみすぎるんじゃないの。もっと視野を狭めたほうがいいのかも。せめて今は電車の駅に降り立つことを考える。そうだ、龍一くんのメールアドレスを教えてくれない?」
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