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予報通り
予報通りに降り出した雨を
蒸し暑い満員電車の窓越しにみてたら
涙が溢れてきた
朝には社会に負けないと
バッチリキメたメイクも
電車の窓越しに見れば
ファンデーションは落ちて
唇はグロスのかけらもなくて
弱った戦士のようだった
「こんなとこにしみがある…」
満員電車の中でつぶやいたあたしの声は
社会の野望と薄汚い嘘の渦に
かき消された
『次は〇×駅~』
ドアが開き
人ごみにまぎれ
疲れきった流行りのパンプスを引きずりながら
改札を抜けた
『すいません!』
不意に掴まれた二の腕に
びっくりして振り返る
『お姉さん泣いてたから…』
差し出された綺麗に畳まれた紺色のハンカチ
え…あたし…
「あり…がとう…っございます…」
なにがありがとうなんだろう?
あたしの脳内と心は思考が固まった
でもわかることは1つ
この真新しいスーツを着飾った
若いサラリーマンに救われた気がした
シトラスの爽やかな香りが香る
紺色のハンカチを握ってあたしは
家路に向かった
彼が運命の人だと気付くのに
そう時間はかからなかった
予報通りの雨
帰りの満員電車
窓に映るのは
思い出に浸り少し微笑む私。
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