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 この世は高瀬瑞姫(たかせみずき)の思い通りだ。  そう言うと語弊が生じるが、大半は思うようにいく。厳密に言えばすべての出来事を思うまま動かせるわけではない。  高瀬瑞姫は自分の都合のいい世界を作り上げることができる。 「はーい、じゃあ次、二十小節目から行くよ」  放課後。高校生の部活動はピンキリだ。瑞姫の所属する吹奏楽部は今、演奏会に向けて練習を重ねている。  指揮担当の女子生徒がタクトを手に取る。一斉に生徒たちが楽器を構えた。瑞姫も緩慢な動きでフルートを構える。 (かったる……)  瑞姫は合奏が嫌いだ。群れること、誰かと同じ行為の猿真似をすること。他人と並列に扱われることを彼女は嫌悪する。  じゃあなんで吹奏楽部にいるかというと、単純にフルートが吹きたいからだ。楽器を買うほどの情熱は注げないが、演奏はしたい。  妥協点を探した結果と、部活で適当な人間関係を築こうとしたためだった。 (今日は部活バックレようかな)  そんな考えも頭をよぎる。
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