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 柔軟さの足りない女は、まるで自分を見ているようで吐き気を催す。瑞姫は俯き、表情が見えないようにして眉をひそめた。 (……ダメ。気持ち悪い)  三森の指揮に従うことは、瑞姫の音楽性に決定的に反した。堅物の王道を行く三森が嫌いだ。自分がこれと信じたものしか見ない、そんな人間はこの場に二人もいらないのだ。  瑞姫は諦めてフルートをクロスの上に置いた。わざとゴトリと音を立てる。  フルートは指揮者に一番近い布陣だ。三森が気付かないわけがない。 「高瀬さん。どうかした?」  顔色が悪いわ、と言われる。そう見えるように演じているのだ、言われないと困る。わざとらしくか細い声を作り、瑞姫は上目遣いに言う。 「ごめんなさい……あたし、目眩がして」 「大丈夫?」  大丈夫なわけあるか、と内心悪態をついておく。適当に首を傾げ、いつもの言葉を呟けば完了だ。 「……ごめん。ちょっと、休んでもいいかな」
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