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「あっほらし」  女子トイレに逃げ込み、蛇口を全開にして舌打ちした。鏡の中の瑞姫は嫌悪感を剥き出しにしている。  息を吸い、吐く。女子トイレなんてどんなに清掃しても汚い場所なのに、ここで吸う空気は音楽室よりもずっと新鮮に思えた。  あほらしい。瑞姫は呟く。何もかもが馬鹿で、愚かで、目も当てられないのだ。  瑞姫にとってはあの空間は檻だ。高校特有の奇妙な仲間意識と、部活柄女子が多いため生まれる閉塞感。  自意識過剰な女子が仕切りたがり、その優越感に浸っている。周囲の女子は穏便に済ませたがってそいつをちやほやする。裏ではとんでもない暴言をはいている、その口で。 「早く、終わらないかな」  瑞姫もどちらかと言えば人の上に鎮座したい性格で、三森との相性は最悪だ。  けれど瑞姫は仕切ることで、目立つことで優越感に浸りたいのではない。三森とは同じ欲望を、違う形で満たす。そして生み出した逃げ道が、これだ。  あの空間に瑞姫を嫌うものはいない。
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