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扉を開けるなと言われ、扉が気になり、扉に怯え、それでも開けたいという衝動にかられる。
魔の連鎖から引きずり出してくれたのはジョーカーの鼻歌だった。
神秘的な気を放つジョーカーとは何者なのか…。
いや、ここはBarグラン・シャリオン。余計な詮索は無用。
今日もジョーカーは、いつものようにカウンターに座りジャックダニエルを飲んでいる。
ロングの煙草を口に銜えて、首を傾げながらジッポで火をつける。スラッとした指で挟み眉間に皺を寄せながらフゥーっと煙を吐く。
薄暗い店内にオレンジ色の柔らかなスポットライトがカウンターを照らして、そこに吐かれた一筋の煙が手に持つ煙草から立ち上る煙と重なって煙のアートを作り出す。
煙たそうに目を細め、マスターと目が合うとグラスを持ち上げ、空中に乾杯をする。マスターもカウンターの中からグラスを持ち上げ空中に乾杯と、離れているのにまるでグラスがカチッと音を鳴らしたような錯覚に陥る不思議な空間。
そして…暫くすると聞こえてくる。
消えそうなくらいの小さな鼻歌。
…!
今度は音が違う…。
ん…んんん…ん…ん…。
アベマリア?
まさか…ジョーカー…。今度は何だ?
そして…ピタッと止まった。
ジョーカーはマスターを見ると、ふっと微笑んだ。
「マスター。また来る。」
どうやら何もないようだ。ジョーカーを見送りマスターは、ほっと胸を撫で下ろした。
マスターは店内を端から端までゆっくりと見ると小さく微笑んだ。そして、ジョーカーに感謝した。
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