第1章

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マスターは、ジョーカーに言われたその日から扉が気になって仕方なかった。 それから何度もジョーカーは飲みに来ているが、あれ以来、何も言わない。それが却って扉を意識させた。 ジョーカーは、いつもと変わらず、ふらっと店に来てはカウンターのいつもと同じ席に座り、いつもと同じように煙草で煙のアートを作り出す。煙たそうに目を細め煙草を吸いながらグラスを空にしていく。 ジャックダニエルをストレートで何杯か飲むと、微かに聞こえてきた。 消えそうなくらいの小さな鼻歌。ン…ン…ン…ン………。 キィィ…っと扉が開いて常連客が入って来る。 「いらっしゃいませ。」 カウンターから声をかける。マスターの視線は扉。この店に扉は、入口とトイレ、在庫置場しかない。どこに扉があるのか。 あの扉とは、どこの扉なのか…。 聞き出したい衝動を抑え込む。ここはBar グラン・シャリオン。客が話しかけて来ない限り、余程の事でなければ、こちらから世間話などしない。 ジョーカーの鼻歌がピタッと止まった。 「なぁマスター。」 「はい。」 グラスを磨きながらジョーカーを見た。すると彼は追い討ちをかける一言を口にした。 「扉が増えてるな。」 えっ…?
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