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「ごめんね。俺、紀子が吸ったって思い込んじゃって、ホントにごめんね」
先刻の威圧感が幻だったかのような、怯えた仔犬の瞳を私に向ける彼に、いつも通り、私の気持ちも解れていく。
そうだ。母の前で堅く強張り、何となく色々と装ってしまっていた私が、彼の前では驚く程自然体でのびのびできている。
判断を誤り選択を間違えてばかりで、振り返れば後悔しかないような人生だけれど、彼と共に歩き始めたことは私の人生における最大最高の功績だった。
そして、彼と出会い、彼のオモシロセンサーに引っ掛かることになった私自身についても、その『私』に至るすべての経緯も、前向きに積極的に受け入れられるようになってきていた。
「仲直りがてら、しちゃいませんか」
茶化すように誘う彼が可愛くて、私もつい茶化してしまう。
「エロゲーで良くないですか」
こんな何でもない反応も、私の自信の表れだろう。
彼との生活で、私の空っぽの自尊心に詰められていったこの自信は、愛される自信なのか。愛する自信なのか。
「良くないです。紀子が良い」
掠れるような彼の声を聞きながら、セブンスターを捨てられない自分もゆっくり消化していこうと、朧気に、でもほんわりあたたかく決意した。
終
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