第1章

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「紀子、タバコは止めなさい」 「へ?」  新婚3ヶ月の旦那に突然呼ばれて座らされ、唐突にこのセリフ。  へ? 以外の応答が想像できない。  いや勿論、え? とかでも良いんだけど。 「妊娠前にやめようって、約束しただろう」 「したね?」 「コレ。見つけたよ。隠れて吸ってたら意味ないでしょ」  そんなセリフと共に座卓にポンと置かれたのは、タバコだった。  セブンスターだ。懐かしい。  確かにコレ、隠れて吸ってたわ。ちょっと笑いが漏れてしまう。 「吸ってないよ」  タバコを見つめたまま、一言返す。  意外に優しげな声が出て、自分で驚いた。 「じゃあ、何でタンスの中に入ってるの。封が切られて数も減ってるよ」  諭すようなセリフだけれど、口調が結構厳しい。  5才も年上の旦那だと、こんな関係になってしまうのは当然かもしれない。  いや、年齢の差だけでなく、確り者で気の回る旦那は唐変木な私のフォローに追われているような毎日だ。  パートナーというより保護者な彼だったから、上からな物言いも当然な態度と言えるだろう。  多少腹は立つけれど。 「ん。そだね」  また、ふふっと笑ってしまった。  過去の遺物でこんな目に遭うなんて、私も大概迂闊過ぎる。 「バカだね」  つい、呟いてしまった。
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