第1章

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 私がタバコを吸い始めたのは、親元を離れ短大に通い始めた頃だった。  とにかく、小煩い親から物理的に離れることができて、解放感に溢れまくっていた。  家のどの窓からも間近に山が見え、その一つを越えてようやく車がすれ違える大道路(ギリギリ往復二車線)に出るようなド田舎で育った私。  当時は、住宅街や商店街すら垢抜けて見えたものだ。  そのくせ、ほんの数回訪れた母の実家のある東京の様子(ここも結構な下町だったが)と比べて『田舎は面白味に欠けて便も悪い』なんて思ったりするひねくれ者だった。  近代文学にのめり込み文学少女を気取っていた高校までのダサい生活から一転して、化粧を覚え、重たい瞼を二重にして付け睫もつけ、ウィッグを被って流行りの服を纏って。  近所の喫茶店でウェイトレスもした。若さでもてはやされ、益々毎日は楽しくなった。  短大で専攻していたのは保育だったが、実のところ子どもなんて嫌いだった。煩くて我が儘で汚くて、しかもそれが前向きに容認されるという恐ろしい時期の人間なんて存在そのものが、狂気としか思えない。  私がわざわざそんな分野を学んだのは、就職に直接結び付く資格の取得を父に強要されたからであり、私の足りない脳みそで合格できたのがこの短大のこの学科しかなかった、それだけだ。
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