第1章

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 私の唯一の趣味である本を『勉強も出来ないのに本ばかり読む必要などない』と取り上げ、私をバカだバカだと連呼していた母。  頭から怒鳴り付け、私の言い分を聞くような雰囲気など欠片も作らず、その上で意見も言えない子だと更に苛ついていた母。  生まれてからずっと自分が世話してきた妹が何でもできることを自慢にしていた母。 「遺品は適当に処分するつもりだから、欲しいものは今のうちに別にしておけ」 と父に言われた時、私は即座に、 「何も要らない」 と、応えてしまった。  条件反射と言っても良い速さの反応だった。  正直言って母に対する意地が全く無かった訳ではない。しかし、母の残したものに対する思い入れが皆無に近いこともやはり、嘘ではなかった。  私のその様子に、そうか、と父は気のない返事をして、「まぁ一応見ておけ」と母の使っていた部屋に私を促し、去っていった。  面倒臭いばかりで気分は全く乗ってこなかったが、形式だけでもとタンスの取っ手に手を掛ける。  開けた途端に、何かがボワッと飛び出てきた。靴下だ。引出しの中に無理矢理詰めていたのだろう。  そうだ、母は、片付けが破壊的に苦手だった。  照れ怒りしたような母の表情が浮かんできて鬱陶しい。  もういい。タンスを見るのはヤメだ。  そのタンスと向かい合っている桐箪笥には着物が入っており、さすがにそちらは整理されているだろうけれど、嫁入り先に敢えて持ち出したいと思うほど使うものでもなく、そこで見栄を張りたいとも思わなかった。
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