第1章

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B 「こんなのでごめん」 そう言ってクラスの仲間は胸ポケットに小さな花を挿すと、卒業証書と書かれたそれを差し出した。 驚いた表情から、涙が溢れ、頬を伝う。 A 「ありがとう…」 小さな花が優しく香る中、彼女が卒業証書を先刻執り行われた式の様に受け取ると、クラス中から拍手がおこった。 用意してくれていた筒に丁寧に丸めて入れると、涙が溢れて止まらなかった。 B 「これから中庭で集合写真撮るんだ」 A 「うん」 B 「行こうよ」 A 「……」 一人、また一人と出ていく教室。黒板の前で立ち尽くす彼女に、仲間達が振り向いた。 B 「一緒に卒業しようよ」 その言葉に、彼女はゆっくり歩き出した。教室の扉の前で立ち止まり、廊下を見れば、クラスの皆が待っている。 廊下から見える中庭には、八分咲きの桜。 A 「ありがとう…大好き…みんな、大好き」 廊下にカランと音を立てて筒が落ちた。 B 「……卒業おめでとう」 落ちた筒を拾い上げ、中庭に向かう。 いつも朝は皆を出迎え、夕方は皆を見送り、テストの勉強に付き合ってくれた彼女。 卒業アルバムにも、卒業写真にも彼女はいない。 それでも彼女は、クラスメイトだった。 ちょっと不思議な、僕らのクラスメイト。
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