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いつものオジサンのいる空間を眺めながら二つのコーヒーを淹れ終えた私は、それをテーブルに運ぶ。
店長は店を閉め切り、いつものオジサンのために貸切の状態を作っていた。
「お持ちしました」
いつものオジサンがいつも飲まれていたコーヒーと、奥さんが亡くなる前に飲まれていたコーヒー。
いつものオジサンは自分のコーヒーを手に取ると、それをそのまま流れるように口に付ける。
「美味しいなぁ。千鶴子や。やっぱりコーヒーは苦いのがいい」
窓から入る太陽の光を浴びながら、いつものオジサンは外の景色を見るように、顔を横に向けた。
「私は幸せだ、千鶴子」
ゆったり流れる時間の中でいつものオジサンの言葉はふわふわと浮かぶ。
そして何処かに消えた。
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