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「いらっしゃいませ!」
喫茶店の扉を開けると、愛想の良い女性が対応してくれた。
「2名様ですね?煙草は御吸いになりますか?」
「大丈夫です。禁煙席でお願いします。」
丁寧な口調で彼が応える。
「かしこまりました!こちらのお席へどうぞ!」
店内に通され、
彼と向かい合うように私は座る。
メニューを開き、店員を呼ぶと
私はミルクティーを、彼はコーヒーを注文した。
「さて、どうしようか?」
彼は大学ノートを開き、私に尋ねる。
今日はゼミの課題の話し合いで喫茶店に来ているのだった。
二人一組で自由にテーマを決め、テーマについて調査・研究・考察を行い20分で発表を行うというものである。
今日はそのテーマと今後の予定を決めることを目標としていた。
「お待たせいたしました!」
元気の良い声とともに注文の品がテーブルに運ばれた。
私はミルクティーに砂糖を入れ、口に運ぶ。
美味しいさと甘さに少し口元がほころんだ。
そんな私とは対照的に、彼は運ばれてきたコーヒーをそのまま口に運んだ。
「苦くないの?」
思わずそう尋ねてしまう。
「全然。」
彼は微かに笑いながら応える。
ブラックコーヒーを涼しげな顔で口に運びながら、ペンを回して思考する彼の姿に目を奪われる。
ペンを持つ彼の手が、思考に耽る彼の表情が、たまに見せる彼の笑顔が、
私の胸を高鳴らせる。
この課題で、彼とペアを組めたことは私にとって最高の幸運であった。
ゼミで初めて知り合った彼だ。
彼の大人びた雰囲気と社交的な性格は、内気で子供染みた私と対極にあり、憧れた。
二人っきりで課題に取り組む姿は、傍から見ればカップルにも見えるのだろう…。
そんなことを考えるとより一層胸が躍り、それでいてそういった仲でないことに虚しさを覚える。
甘い甘いミルクティーを飲みながら、苦いコーヒーを飲む彼との距離を感じる。
「ごめん、ちょっとタバコ吸ってくるね」
そう言って、あえて選んだ禁煙席から喫煙席に消えていく。
「気を使ってくれなくてもいいのに。」
と禁煙席に座らされた私は一人呟く。
彼がいなくなったテーブルで、
勇気を出して彼の飲みかけのブラックコーヒーに手を伸ばす。
あえて彼の飲んでいた飲み口をこちらに向けてから、一口…。
「苦い。」
青春の甘酸っぱい恋の味ではなく、大人のビターな恋の味がした。
苦味を口いっぱいに含んで、私は少し彼に近づけた気がした。
[end]
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