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「あの、胃潰瘍部はここですか?」
扉の隙間からそろそろと顔をだしたのは、肩につく髪を二つに結び、目の上で整えられた前髪に黒ぶちの眼鏡をかけているという優等生を絵に描いたような少女だった。
「如何にも。君は宇佐木菜々さんかな?」
「は、はい」
宗二は菜々を迎えると、客人用の一人掛けソファーに座らせ、部員の紹介から始めた。普段の通り、一人一人、名前やら学年・クラスやらを時には冗談を交えながら簡単に言っていく。虎之助が淹れた紅茶も一役買ったのだろう、全員の名前を伝え終わる頃には、宗二の容姿にあてられたのか顔を紅潮させて緊張気味だった菜々の表情も和らぎ身体からも硬さが無くなっていた。
「さて、じゃあそろそろ依頼にあった事件について聞かせてもらおうかな」
紅茶から立っていた湯気が薄くなった頃、宗二がそう切り出した。
「君が昨日送ってくれたメールには佐々木裕樹さんの無実を証明して欲しいと書かれていたけど、詳しく説明してくれるかな?じゃあ、まずは裕樹さんについて」
胃潰瘍部に何か頼みごとがあるときには、部員に直接依頼するか、専用アドレスに用件を記したメールを送ることになっている。菜々は春休み中ということもあって後者の手段をとったようだ。その菜々が胃潰瘍部宛に出したメールには彼女の切実な願いが込められていた。
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