0人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい。佐々木裕樹さんというのはわたしの隣の家に住んでいる大学生で、兄弟のいないわたしにとってお兄ちゃんのような存在で、わたしは裕ちゃんと呼んでいます。誰にでも優しくて平等ですごくいい人なんです」
菜々が口を開いたのと同時に席から離れた虎之助はホワイトボードの前で依頼者から得た情報をそこに書き込んでいく。これも彼の役目だ。
「この無術の証明とは?」
「一昨日、女子大生が駅の階段から突き落とされたという事件があったのを知っていますか?」
「ああ!あったね!夕方のニュースでやってた。意識不明だって」
「はい。警察はその事件の犯人が裕ちゃんだって疑ってるんです。昨日の午前中に警察署に連れてかれてしまって……。実はその女子大生というのが裕ちゃんの恋人で、二人の仲が悪かったって話や犯行時刻に駅の防犯カメラに裕ちゃんの姿が映ってたらしいんです。それで警察が裕ちゃんを犯人だって」
「なるほど。痴情の縺れだね。よくある、よくある」
「よ、よくあるんですか?」
「ああ、気にしないで。この人サスペンス好きでさ」
納得したようにうなづいた宗二に驚きの反応をみせた菜々は、虎之助の言葉に冷静さを取り戻すと、警察が根拠としているものに反論した。
「でも二人が不仲って絶対にありえないんです!わたし事件が起きる前日に二人と一緒だったんですけど、すごく幸せそうにしてたんです!」
「それ警察には?」
「言いました!でも男女のことは二人しか分からないって」
うつむいた菜々の膝に乗せた手からは自身の無力さが滲む。力がこもった拳は微かに震え、警察でさぞかし悔しい思いをしたのだろうと宗二たちに感じさせる。
最初のコメントを投稿しよう!