1. 最初に疑われる人は大体犯人じゃない

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 「その彼女の名前は?」  「北川琴音さんです。裕ちゃんと同じ大学に通ってて、去年の秋ぐらいから付き合い始めたそうです。わたしもよく遊んでもらったりして……。だから早く犯人を捕まえて欲しいって気持ちもあるんですけど、でも裕ちゃんは絶対犯人じゃないって気持ちもあって……」  彼女の中で二つの感情が複雑に絡みあっているようだ。  菜々からのメールを受け取ったあと、宗二は真行寺家の情報網を使って佐々木裕樹という人物について調べていた。受け取った報告には、先ほどの菜々の話にも出たようなことが記載されていた。  幼い頃から共働きで忙しかった両親に変わって弟の世話を焼いたり、素直な性格で近所の年配者を虜にしたり、学校では品行方正、争いごとを嫌う平和主義者だったために常に和を大切にしてきたそうだ。現在は大学に通いながらボランティア活動にも熱を注いでいて、周囲からの評価は高かった。  去年の秋から被害者の琴音と恋人関係にあり、周囲には「自分には勿体ない人だ」とお互いがお互いについて惚気ていたという証言もある。勉学に勤しみ、学外活動にも精を出し、交際相手とも円満な関係を築いている。そんな順風満帆な学生生活を送っていた中での今回の出来事だった。  「だが、君が知っているのは彼の一部分だろう。本当に彼が犯人じゃないと言い切れるのか?」  視線も鋭ければ一つ一つの発言もキツイ武士。菜々は一瞬、たじろいだが、武士を見据えてこう言った。
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