1. 最初に疑われる人は大体犯人じゃない

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 「今週末はどうかしら?その頃には事件も解決していると思うのだけれど」  「は、はい?あ、いや、あの」  狼狽える菜々と意気揚々としている百合香。対照的な二人を見ていられなくなったのか、虎之助は咳払いをひとつすると、  「先輩、お口チャック」  と言いながら指で作ったバツ印を口の前に置いた。先輩と後輩のやり取りというよりは親子のようである。こういった所にも部内での虎之助の立ち位置がうかがえる。  「じゃあ、早速調査に出かけようか。まずは裕樹さんの通ってる大学の友達からだね。あと警察の方の状況も知りたいな」  「ではそちらはわたくしが。京一郎さんにも協力してもらいますわ」  婚約者の京一郎は元警察官ということでそっち方面には顔が効くため、胃潰瘍部によく付き合わされている。度々、「また首を突っ込んで」と呆れた顔をされるが、なんだかんだ言っても結局胃潰瘍部を助けてくれるのだ。  「僕たちは大学の方に回ろう。今日中に裕樹さんと共に行動している3人から話を聞きたいからね。手分けしよう」  昨夜のうちに、所謂「いつメン」のメンバーには連絡をして約束を取り付けていた。3人共、待ち合わせ場所が異なっているのは個別に聴取をしたいがためで、一対一の方が言い辛いことでも話せるようにという配慮から胃潰瘍部ではこうしていた。というか、宗二がサスペンスドラマ内でそうしているのを真似ただけなのだが。  虎之助がカップを片付けている間に宗二たちは出かける支度を整える。百合香は菜々に都合のつく日を教えてもらい、宗二は余った茶菓子を頬張り、武士は携帯電話を操作している。自由気ままな人たちの中にいる働き者の苦労と負担は計り知れない。  虎之助は友人らに「あの部にいて疲れないか?」と心配されることがあるのだが、武士に邪険にされようが、百合香に振られようが、宗二の所為でモテなくなろうが、彼の答えがいつも「意外と楽しいよ」なのが驚きである。虎之助は振りまわす側より振り回される側の方が合っているのかもしれない。
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