1. 最初に疑われる人は大体犯人じゃない

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 特別教室棟一階のあまり広くはない角部屋にその部活は存在している。昔は教師の控え室として使われていたのだが、校舎を増築する際に職員室を作ったために空き部屋となっていたのを4年前に部を創設した生徒が部室にした。  室内には元々あった木製のテーブルを囲うようにして革のソファーが置かれ、簡易的な食器棚にはティーセットやお茶菓子、ソファーに座った状態で見える場所にホワイトボードや部屋の奥に冷蔵庫も完備されている。  「今回の依頼者は一年A組の宇佐木菜々さん。依頼内容は彼女の隣の家に住む佐々木裕樹さんの疑いを晴らしてほしいということだ」  そのホワイトボードの前で真面目な顔で書面を読んでいる金髪の青年の名は真行寺宗二。この胃潰瘍部の現部長である。宗二は、容姿・家柄・人柄の三拍子が完璧に揃っており、彼が現れれば人集りができ、口を開けばその美声に辺りは静まり返るという学校の人気者である。  大のサスペンス好きで、本来ならば然るべき学校に通うところを敢えて梅ヶ丘に入学したのも探偵の真似事ができる「胃潰瘍部」という部活があると耳にしたからであった。  ちなみに一番のお気に入りのサスペンスドラマは、年に2回ほど放送される、赤嶺刑事の事件簿シリーズである。宗二はよく、「そろそろ昇進試験を受けたらいいのに」と嘆いている。
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