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「今日はこれから依頼者が来る予定だから。詳細はその時に聞こう」
宗二は紙をテーブルに置くと、副部長の九条百合香の向かいに腰掛けた。
百合香はホテル経営から病院経営まで多岐に渡って成功を収め、日本ならず世界にもその名を轟かせている由緒正しき九条家の御令嬢で、見目麗しく、淑やかな振る舞いから、「大和撫子」と称されている。
ただ、世間知らずというか現実離れしているというか、空想的なことを現実に求めてしまう節があるのが玉に瑕な女性だ。例えば、一回り歳上の婚約者との主なやり取りは文通、誕生日のプレゼントは歳の数のバラがいいとか。おっとりとしているだけに振り回されることも多い。
「宇佐木さんは一年生ですのね。武士さんはご存知かしら?」
隣に座るのは一色武士。生まれてから十年間を海外で過ごした日本とアメリカのクウォーターで、日本の武士を尊敬してやまない青年である。6年前から百合香の執事兼用心棒をしている。
主人に仕えれば武士のように強く凛々しい男になれると思ったことをきっかけに、たまたまテレビで目にした九条家に雇って欲しいと直談判しに日本にやってきてからというもの百合香に付き従っている。
基本的に無口で無駄口はたたかない男だが、校内においては、髷を結おうとして友人や教師に止められた経験があり、それ以来、いろいろな意味でさらに目が離せない存在となっている。
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