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虎之助は言い負けて悔しそうにしながら電気ケトルのスイッチを押す。
これらのお茶を飲むための道具を持ち込んだのは百合香で、湯を沸かすための電力も自分たちで調達できるようにと九条グループの企業にソーラー発電付きのケトルを開発させるという徹底ぶりも披露した。
「あら!虎之助さんの素敵なところはたくさんあるわ」
「百合香さん!」
まるで神に祈るかのように指を組んだ虎之助の目には百合香に後光がさす姿が映っていることだろう。虎之助は煌めきの眼差しで百合香に縋った。
「特にお茶の淹れ方は素晴らしいですわ。虎之助さんにはきっと才能がお有りなのね」
「……百合香さん、それあんまり嬉しくないんですけど」
期待外れの答えに落胆しつつも手を動かす虎之助が部内で任されているのはお茶係。客人がいるいないに関わらず、部室に集まったときには必ずお茶を淹れさせられるのだ。もちろん他の面々はそういったことを一切しない。
虎之助は外見こそ浮ついているが、こう見えても面倒見がいいし、よく気の回る男だった。自由奔放な部員に翻弄されながらも部のまとめ役として奔走しているのだが、それを他人に分かってもらえない苦労者でもある。
「貴様にも才能の一つはあるものなんだな」
「うっさい!」
虎之助が武士の紅茶の中に砂糖をぶち込んでやろうかと思ったちょうどその時、部室の扉が控えめな音を立てて開いた。
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