日常

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 私はハゲている。  スキンヘッドではない。  未練がましく頭の両サイドには薄い髪の毛が生えているのだ。  仕事と寝る時以外は常に帽子を被っている。  勿論、ハゲを隠すためだ。  私の名前は磯ヶ谷平次郎。  53歳。  結婚もしているし、子供も二人いる。  それどころか孫だっている。  でもハゲてしまった。 「人は見た目じゃないよ」  母は常にそう言い続けて私を育てた。  母に会いたくなった私は実家へと足を運んだ。  特にやる事も無い為、のんびりと居間でくつろぐ。  すると、母がコーヒーを持ってきた。  そして私の被る帽子をじっと見つめ、暑いでしょと言って急に帽子を取り上げる。  母はこう言った。 「うわっ……」  更に時間をおいてこう言った。 「……ごめん」  私はタバコを片手にコーヒーを飲む。  せめてダンディであるために……  
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