火曜日

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 今日は祝日。  会社は休み。  私は居間で新聞を読み、昼間からビールを飲んでいた。  すると娘が1才の孫を連れてやってきた。 「お邪魔しまーす……あれっ、お父さん昼間からお酒飲んでるの? まあいいや、ちょっとこの子お願い!」  娘はそう言うと、孫を私の膝に置いてトイレに駆け込んだ。 「あだっ、あだっ!」  孫はとても可愛い。何を言っているのか分からないが、私は笑顔になる。  しかし、急に孫が暴れ出した。  母親がいない事に気付いたのだろう。  慌てて周囲を見渡し、テーブルにあるミカンを渡してみた。  孫は両手でしっかりとミカンを持ち、じっと見つめる。  落ち着いた孫に安心していると、次の瞬間、とんでもない事が起こった。  孫がビールの缶の上にミカンを置いた……つまりアルミ缶の上にミカンを置いたのだ。  台所にいる妻を大声で呼んだ。 「母さん、これを見てくれ! 早く!」 「はいはい、今行きますよ」  トイレから出た娘と一緒に、妻が居間へ顔を出した。 「これを見てくれ! アルミ缶の上にあるミ……」  そう言い掛けた時、娘がミカンを掴んだ。 「あっ、喉が乾いてたんだ。ミカン貰うね。……おいしーっ! ……で、何を見ればいいの?」 「……すまん。勘違いだった」  ショックを受けた私は、喫茶店へと足を運びコーヒーを注文する。  そして、窓際の席に座ってこう呟いた。 「あんな奇跡……二度と起こるまい……」  私はタバコを片手にコーヒーを飲む。  せめてダンディである為に……
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