11人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の閑静な住宅街にある、一軒家。ここが豊の家だ。
(ただいま。)
おかえり、と、母と兄が出迎えた。
(オーディション、どうだった?)
まあまあ、と答えると、兄の康は、参考書に視線を戻した。康は、豊より5歳上の大学4年生。一流大学に通っており、弁護士を目指している。
(今日は、豊の好きな、餃子よ~)
母の絹枝は、大皿に盛られた餃子を、ダイニングテーブルに置いた。
(母さん、身体は、大丈夫なの?)
絹枝は、病気がちだが、家一番の働き者だ。しかし、時々無理をして寝込むことがある。それが、豊の悩みの種になっていた。
(大丈夫。豊や康のことを考えたら、病気なんてふっ飛んじゃった。)
いつもの笑顔で、母が笑う。豊も、つられて笑顔になった。
(豊。こっちへ来なさい。)
居間の入り口を見ると、父の健一が、厳しい顔をして立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!