喫茶店の紳士

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中島さんは、驚いて私の顔をじっと見ている。 私自身驚いていた。 笑顔でいるつもりだったのに。 泣くつもりなんて、全くなかったのに。 どうしたらいいのかわからなくなり、ミユキに助けを求めようと、後ろを振り返ると 「どうかしたのですか」 中島さんが席から立ち上がって、私の肩に手を置いた。 心配そうに顔を覗き込んでいる。 あまりにも近い距離で、戸惑ってしまい、思わず体を離した。 「ご、ごめんなさい。なんか、すいません」 「何か、あったのですか?」 「いえ、あの、本当に、大丈夫ですから」 私は、逃げるように中島さんの席から離れた。 「何やってんの」 ミユキはあきれてため息をつく。 「ごめん…」 あのあと、中島さんは、少し戸惑った表情をしていたが、やがていつものように、カバンから2冊の本を取り出し、読書を始めた。 最後に読む本は、どんな本なんだろう。 だけど、さっきの失態もあるので、もう、話しかける勇気はなかった。
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