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「……なんで! 黙ってんのよっ!」
バシンと空気が震え、次の瞬間には、しんと静まり返った。
三年間付き合ってきた彼氏には、四年前から付き合っている彼女がいたそうだ。
問い詰めても押し黙る彼に、私は頭に血が登り、顔からは羞恥で湯気が出そうだし、怒りで震える肩や腕は今にも噴火間近の活火山。
いや……もう、彼の頬が赤く腫れ始めてるのを見てすでに噴火してしまった事を思い返す。
ジリジリと痛む手のひらを握り、駆け出した。
「ばかっ! もうしらないっ!」
別れるにしてもケンカ別れだけはしたくなかった。後を引くから。でも、もう顔も見たくない。
野次馬が集まる交差点近く。点滅する信号を渡りきって涙を拭った。
「……バカはお前だ、目立ちすぎ」
そんな声が背後に迫り、次には背中から抱きしめられる。
「芝居下手すぎ」
「……っ」
長い指で持ち上げられた顎。その指が頬を暖かく包むと、その熱を吸いとって頬が更に熱くなる。
二年前から付き合っていた彼のキスは、待ちくたびれて飲み過ぎたコーヒーの苦味と、たった今吸ったタバコの香りがした。
*end*
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