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5人の子どもたちも、ボクを見て指をさした。
「>@、ネコ$.#&!」
ボクはその場から走り出した。そう、大概の人はボクを見て「ネコ」と呼ぶ。だけど、彼女だけは違ったんだ。彼女だけは。
その時、偶然にも彼らの家の前に来たらしかった。ボクは、彼らのことを思い出す。彼らがボクを「ネコ」と呼んだのは、最初の日だけだった。彼らも、もしかしてボクを「レオ」と同じような名前で呼んでいたのだろうか・・・。
楽しかったな・・・みんな笑顔が明るくて、抱きしめてくれた腕の中は温かくて。そんな想いがふと沸き上がる。けれど、若い女性とは、3年も一緒に暮らしてた。
檻の中に入れられて毎日大通りを眺めていたボク。道行く人は、ボクを見て「ネコ」と言った。しかし、隣の檻の子も「ネコ」らしい。
そんなある日、ボクは唐突に檻の中から出されたんだ。その日から彼女と過ごすようになった。
笑顔がきれいな人だった。どんなに疲れて帰ってきても、毎日頭を撫でてくれたんだ。彼女はボクを見て「レオ」と言った。そんなことがよくあって、自分の名前は「レオ」なんだと思うようになった。
たまに男の人と一緒に帰ってくると、男の人も可愛がってくれた。男の人は彼女を「ユキナ」と呼び、彼女は彼を「シンヤ」と呼んでいた。そんな日はやけに機嫌がよかったな。それが、あの日──。
珍しく、彼女が外に連れ出してくれた。胸にボクを抱いて散歩をしていたのだけれど、ボクは彼女の首筋で光るキラキラとした鎖が気になって仕方なかった。ボクは少しそれをいじったり、噛んだりしていた──鎖は切れて、地面に落ちていった。
その夜からだった、彼女の笑顔が消えたのは。いつもより遅く帰ってきて、悲しそうに泣いている時間が増えた。ボクは、あの鎖のせいだと直感した。ボクがいじって切っちゃったから──あの鎖を探しに行こう。
こっそりと家を抜け出して、公園に行った。鎖を落とした辺りを探しても、見つからなかった。ボクは木の上に登った。上からなら、きっと・・・。
その時、急に床が抜けたような感覚がした。落ちる!と思ったあとの記憶は、ない。そして、気がついたときには──。
ボクは彼らの家の前に、そっとカマキリを置いた。バイバイ。もうお別れだよ。ボクは走り出した。
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