第1章

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タバコの灰が落ちた コーヒーがこぼれた 世界が終わった どれも似たようなものなんだと、ここで学んだ。 今までたくさんの事件の犯人を見つけた。捉えた。そして、新聞に載ったりして名も少し売れて。 舞い上がって、失敗して、やり直して。地道な努力はそれなりに評価してもらえる。 今日はタバコの灰が落ちた。 俺の世界はまだ終わらないようだ。 犯人を捕まえれば、俺は報酬を得る。犯人はどうだろう。何かを失うだろう。自由とか? うまい喩えにならなかったけど、等価交換なんてできてない時の方が多いなって。 タバコの灰が落ちたから、今日も世界は終わらないんだ。明日はコーヒーがこぼれるかもしれないし、世界が終わるかも。 事件が起こるのは嘆かわしいことだ。起きない方がいい。でも、事件が起きなかったら俺はどうやって生きていけばいいんだろう。生きていけるのだろうか。あぁ、嘆かわしいことだ。 「ちょっと!草丈さん!またそこでぼーっとしてないでくださいよ。外から見える席なんですから。」 「じゃあなんだ。どうしたらいいんだ。」 「せめて...ほら!新聞読むとか、本読むとか、ポーズだけでもするといいかも。あなたぼーっとするとき外見るでしょ?歩行者の皆さんが草丈さんを注目してなんか迷惑になってます!!」 「物が増えると確率が変わる。」 「いつもそれ言いますけど、世界はそんなに簡単に終わりません!」 「じゃあ席移るよ。それでいいだろ?」 「いや...あなた目当ての客がいると店が潤うというか..いつでもご新規様募集中ですから!」 「うーん、なるべく外を見ないようにする。それでいいかい?」 「お願いします。」 「じゃ、コーヒーのおかわりを頼むよ。」 「かしこまりました。」 コーヒーはこぼれなかった。 タバコの灰は落ちなかった。 世界はおわらなかった。 事件はまだ起こらない。 やはり世界が終わるのは角砂糖が溶け残った時か。
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