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「うぃ~飲んだ飲んだ。」
ベアは好物の酒をたらふく飲んで満足そうだ。
ジェイムズやテレーズも少々飲んだが嗜む程度。
「さて、いい時間になった。テレーズが探してくれた宿に帰るとするか。」
ジェラールが促すと、ベアは動かないヘクターをひょいと担ぎ上げ席を立った。
「それではテレーズ、宿まで案内を頼む。」
「はい、陛下。近場の宿を取ってあります。」
飲み会の後に延々歩くのでは事だと、気を利かせたテレーズのおかげで宿には比較的早く着いた。
外観はいかにも町の宿といった感じの、隠れ家的な宿だった。
宮殿育ちのジェラールは自然と心が踊る。
「なかなかいい宿ではないか。」
「ジェラール様には少し質素過ぎませんでしたか?これでもこの辺りでは良い宿なのですが…」
テレーズは、いかにお忍びの視察とはいえ皇帝たるジェラールを、こうしたいかにもといった宿に宿泊させるのは少々気が引けた。
「いや、良い。これがいいのだ。こんな良い宿で外泊とは楽しみだ。」
まるで少年のような瞳のジェラールを見てテレーズは昔の事を思い出した。
テレーズが猟兵としてアバロンに来たばかりの頃、レオンもまだ若く、ジェラールが少年であった頃の記憶。
「どうした?テレーズ?」
ジェラールの声にテレーズは我に帰る。
「あっ…いえ、なんでもありません。さあ、行きましょうジェラール様。」
「ああ。」
テレーズに連れられて宿屋に入ると、早速出迎えがあった。
宮殿に帰るといつもこうして出迎えられるので、こんな時ばかりは出迎えなしでお願いしたいと少しわがまま心が囁く。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞお部屋に案内いたしま…」
「!」
ジェラールは出迎えてくれた宿屋の娘を見て驚いた。
翠髪の2つに編まれた三つ編みおさげ。
「君は…昼間の…」
「あっ!旅人さん!」
テレーズは何が何だか分からない様子だ。
彼女にしては珍しく、目を丸くしてキョロキョロしている。
ジェラールが昼間引きずり回された話は、意識の無いヘクターを除いてテレーズだけ聞いていない。
「でもテレーズさんはさっき帝国の兵隊だって…旅人さんも兵隊さんなの?」
それを聞いたジェイムズがグイッと前に出る。
「失敬な!ジェラール様はアバロン皇帝であらせられるぞ!」
「やめろ!ジェイム…」
ジェラールが止めようと手を伸ばしたがすでに遅く、その場の空気は凍り付いた。
「…あ。」
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