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ニーベルから龍の穴まではそう遠くない。
歩いて1時間程度だろうか。
格闘家の警戒が行き届いているらしく、あたりにモンスターの気配はない。
龍の穴が近くなってくると、次第に勇ましい掛け声が聞こえてきた。
修行者が稽古にはげんでいるのだろう。
すると、どこからともなく男の声が響いてきた。
「…その方、この辺りの者ではないな。修行志願者か?」
どうやら龍の穴の門番のようなものらしい。
不思議な事に声の主の気配は感じられず、辺りの岩山に声が木霊してどこから話しているのか見当もつかない。
流石は武道の達人の巣窟。腕の立つ者が多いようだ。
「突然の訪問失礼する!私はアバロン皇帝、ジェラール!格闘家の頭目、カール殿に話があって参った!」
ジェラールはどこにいるとも分からない声の主に答え、大きな声で周囲全体に響くように言葉を返した。
すると、すぐ脇の岩影からベア程の体格はあろうかという大男が姿を表した。
顔には仮面を付けており、表情を読むことができない。
「!ジェラール様!危険です!お下がりください!」
ベアとジェイムズはジェラールの前に立ちふさがり、武器を構えた。
男は全身の力を抜き、ゆらりと不気味に立っている。
「くっ!こいつスキがねぇ…ジェイムズ、ヘクター!気を付けろ…」
ベアは最前線に立ち、ジェイムズとヘクターはその両脇から戦闘体制をとる。
テレーズも弓を構え、いつでも放てるよう身構えた。
「皆、そういきり立つな。彼から敵意は感じない。私が話をしてくる。下がっていろ。」
ベア達はジェラールの声に武器を納めた。
ジェラールはゆっくりと男に近付く。
「武器を向けてすまなかった。まず、詫びよう。」
ジェラールは右手を差し出し、男に握手を求めた。
すると男は素直に握手に応じる。
「皇帝陛下でしたか。これは私の方こそ失礼しました。私はカール様の付き人をしている者です。」
男は見た目に反して紳士的に返答し、片手を上げて何やら合図を送る。
すると周りから放たれていた気配がスッと消えた。
「弟子達は退かせました。私がカール様の所へ案内しましょう。付いてきて下さい。」
そう言うと、男は岩山の奥へと一同を先導するように歩いて行った。
「感謝する。」
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