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「マーニャ。」
テレーズを湯に案内し、戻ってきたマーニャをジェラールが呼び止めた。
「ジェラールさん!どうしたの?こんな所で。お夕飯ならまだ…」
「いや、実はひとつ謝らなくてはならない事があってな。君がくれたお守り、どうやらモンスターとの戦いで焦げてしまったようなのだ。穴があいてしまった。すまない。」
マーニャはニッコリと微笑む。
「ううん。いいの。身に付けてくれてたんだね。ありがとう。きっとお守りがジェラールさんを守ってくれたんだよ。」
マーニャの予想外の反応にジェラールは少し驚くも、ホッとした。
「直してくるわ。預からせてもらっていい?」
「本当か。それは助かる。」
ジェラールはマーニャにお守りを手渡した。
「夜には直ると思うわ。直ったら渡しにいくね。」
「ああ、頼む。私は縫い物などからっきしでな。得意な者が側にいてくれないものかと思うよ。」
マーニャが身をすくめ、顔を赤くする。
「ん?どうした?マーニャ?」
「な…なんでもない!もう、ジェラールさんったら。」
マーニャは足早にその場を去っていった。ジェラールには何やらさっぱり分からない。
「…何か悪い事でも言ってしまったか…。」
俗世に疎いというのは不便なものだ。
こういう時ほどベア達をうらやましく思う時もない。
「ジェラール様…逢い引きですか…」
「うわっ!ベア!」
ジェラールの背後に突然現れたのは酒瓶を両手に抱えたベアだった。
「はっはっは!やっぱりジェラール様、あの娘の事が…」
「ち、違う!誤解するな!マーニャにも失礼だろう!それに私のような世間知らずの皇帝風情が相手にされるわけもなかろう。」
ベアはニヤニヤしながらジェラールの顔を覗き込んでいる。
「彼女にもらったお守りが焦げてしまってな。直してもらっているのだ。」
「そうですか!はっはっは!やりますなぁジェラール様!」
ベアの誤解は全く解けていない。それどころか面白い話を聞いたというような顔をしている。
「ジェラール様。一杯どうです?酒はこの通り、たくさん調達してきました。」
「いや、遠慮しておくよ。夕食前に酔い潰れてしまっては宿の者に申し訳ない。それまでは自室で休むとするよ。」
ジェラールはベアの酒を断るとそそくさと自室に戻っていった。
この手の話ではベアが一枚も二枚も上手だ。
これ以上からかい倒されてもかなわない。
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