第2章 ザ・ドラゴン

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その夜。 ジェラールは宿の屋上の月のよく見えるテラスに出ていた。 ここに宿泊して以来、すっかりお気に入りの場所になった。 宮殿から見るのとはまるでちがう温かさに満ちた月にジェラールは感じた事のない安らぎを覚えている。 「ジェラールさん。やっぱりここにいた。」 声がして振り向くとそこにはマーニャの姿があった。 「お部屋にいないから。でもすぐここだって分かったよ。」 マーニャはゆっくりとジェラールの元へと歩み寄ってくる。 明かりはマーニャの背後の扉から漏れるものと月明かりのみ。 マーニャが近付いてくるにつれて、その姿は月明かりに照らされて鮮明に浮き上がってきた。 「はい、お守り直ったよ。また身に付けてくれたら嬉しいな。」 マーニャはジェラールにそっとお守りを手渡した。 「ありがとう。今度こそ大切にするよ。」 「うん。」 マーニャはニッコリと笑い、ジェラールの横で手すりに肘をついた。 「ねえ、ジェラールさん…」 「なんだい?」 マーニャは少し瞳を伏せて話はじめた。 「明日になったらアバロンに帰っちゃうの?」 「ああ、いつまでもここにいられないしな。運河要塞とも話をつけなくてはならん。」 マーニャは寂しそうな顔で瞳を伏せた。 「そしたらもうジェラールさんはここには来ないの?もう…会えないの…?」 マーニャはジェラールの服の袖をキュッと掴んだ。 「そうだな、しばらくは立ち寄る事も無いだろう。しかし安心してくれ。この町には帝国兵を配置して安全確保に努めるつもりだ。龍の穴とも協力して…」 「違う!そうじゃない!」 マーニャは伏せた顔を勢いよく上げ、強い目でジェラールを見た。 その目にはいっぱいの涙が湛えられている。 「…そんなの…どうでも…いい…」 マーニャは体と声を震わせながら、それでも視線をジェラールから外さない。 マーニャの大きな瞳から涙がこぼれ落ちる 「ここにいて…ジェラール…さん…私…私…!」 マーニャはジェラールの胸に顔を埋め、体を震わせている。 「どうした。マーニャ。ここにいろって…」 ジェラールの言葉を遮るようにマーニャは震えた声で話す。 「ジェラールさん、また…危険な戦いに…いくんでしょう…?心配で…怖くて…もう…会えなかったら…どうしようって…」 マーニャはそのまますすり泣いている。
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