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「マーニャ…」
「だから…ここにいて…どこへも行かないで…それが無理なら…」
マーニャは体を起こし、潤んだ瞳をで再びジェラールの顔を見つめる。
「私をアバロンに連れていって!」
その瞳の決意は固い。
ジェラールはここまで来てようやくマーニャの心中を察する。
ジェラールはマーニャの肩に手を回して彼女を抱き締めた。
マーニャは身を縮め、体を預けるようにジェラールの胸に収まる。
温かい月明かり、マーニャの息づかい、鼓動、体温。
その全てがジェラールに伝わってくる。
「ありがとう…マーニャ。君はこんなにも私の事を思ってくれていたのか…今まで気付けなくてすまない。」
マーニャは抱かれたまま小さくコクンとうなずく。
その頭をジェラールは優しく撫でた。
マーニャは体をピクッとさせて、さらにジェラールに身を寄せる。
「ジェラールさん…私が…ここにいる間に…どんどん先に行っちゃうから…怖くて…怖くて…」
「すまない。私のような世間知らずの皇帝風情が、君のような女性に相手をしてもらえるなど…思ってもみなかったのだ…」
「ここに…いてくれる…?」
「それはできない。私には父から預かった国と家臣がある。それを蔑ろにすることはできない。」
マーニャはまた体を震わせる。そして体を起こしてジェラールの目を見つめた。
「じゃあ…私がアバロンに行く…」
ジェラールは首を横に振る。
「ダメだ。君にも家族がある。君が私の事を思ってくれる以上に、ご両親は君の事を思っている。私は昨年、父を亡くしている。父は私達を守るために己の命をも盾にした。わかるか?マーニャ。ご両親にとって君はそれほどにも代えがたいものなのだ。」
マーニャの瞳からボロボロと涙がこぼれ出す。
「…じゃあ……じゃあ…わだじは…どうずればっ………!」
マーニャはジェラールにしがみついたまま、震えながら泣きじゃくる。
ジェラールはそんな彼女の頭をそっと撫でた。
「またすぐにここに来る。何かの折りにも、何もなくてもだ、約束する。マーニャ、君もいつでもアバロンに遊びに来るといい。」
マーニャは涙を流しながら目を細め、顔を赤らめた。
「ぜっだい…だよっ!…やぐぞぐ…だがらっ…ねっ…!」
マーニャはそのままジェラールの胸に顔を埋めた。
月明かりに照らされた彼女の姿は変わらず愛しく、ジェラールにとって安らぎそのものだった。
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